【1月号】令和5年度税制改正大綱のご紹介 その1
2023.01.31
昨年の令和4年12月16日に令和5年度税制改正大綱が発表されました。令和5年度はNISAの拡充・恒久化、富裕層への課税強化、自動車産業の変革に伴うに税制改正が大きな柱となりました。しかし、個人事業主や法人に関する税についての改正も盛り込まれていますので、今回のTax Firm Newsではまず、個人事業主や法人に関する以下の改正を中心に見ていこうと思います。試験研究を行った場合の税額控除制度(研究開発税制)については、紙面の関係上、回を改めて紹介いたします。
1. 適格請求書等保存方式に係る見直し
適格請求書発行事業者となる小規模事業者については、適格請求書発行事業者(=いわゆるインボイス発行事業者)になることによって、税負担及び申告等の事務負担が大きくなることから、以下のような措置が講じられました。
(1)適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置
適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと又は課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる場合には、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、その課税標準額に対する消費税額に8割を乗じた額とすることにより、納付税額をその課税標準額に対する消費税額の2割とすることができることとなります。
この制度は平成5年10月1日から新たに適格請求書発行事業者又は課税事業者となった事業者が対象です。
適格請求書発行事業者がこの消費税額の2割の納税制度の適用を受けようとする場合には、確定申告書にその旨を付記すればよく、特別に届け出をする必要はありません。
この制度は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する3年間継続されます。この制度により税負担がかなり軽減されるとともに、事務負担も軽減されることが期待されます。
小規模事業者が課税事業者となった場合、簡易課税制度の選択が可能になります。小規模事業者が令和5年10月1日の属する課税期間中に簡易課税制度選択届出書を納税地の所轄税務署長に提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度の適用が認められます。
卸売業は簡易課税制度を採用した場合、売上に係る消費税額の90%を税額控除することができます。よって、主に卸売業を営んでいる場合には、2割の税負担より、簡易課税制度を選択したほうが納税額を軽減できる可能性があります。
(2)支払対価の額が1万円未満の場合の特例
原則的には、インボイス方式が適用される場合、金額にかかわらず、所定の事項が記載された適格請求書を保存することが仕入税額控除の要件になっています。
しかし、基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において行う課税仕入れについて、その課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満の場合には、所定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる経過措置が講じられます。
基準期間における課税売上高が1億円以下である中小企業の事務負担が、急激に増加しないように手当てをしたものと思われます。
(3)売上返還等の税込価額が1万円未満の場合
売上に係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務は免除されます。
この改正には、上記(2)のような基準期間における課税売上高の金額の制限が入っていませんので、すべての法人に適用されます。
この改正は、令和5年10月1日以後の課税資産の譲渡等につき行う売上げに係る対価の返還等について適用されます。
(4)令和5年10月1日後に適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合
令和5年10月1日後に適格請求書発行事業者の登録を受けようとする免税事業者は、その登録申請書に、提出する日から15日を経過する日以後の日を登録希望日として記載することができます。この場合においてその記載希望日後に登録がされた場合であっても、その登録希望日に登録を受けたものとみなされます。
登録希望日=登録日になりますので、この登録日から適格請求書発行事業者となり、インボイス方式を適用することができるようになります。
(5)「困難な事情」の不問
令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者が、その申請期間後に提出する登録申請書に記載する困難な事情については、運用上、記載がなくとも改めて求めないこととなりました。
現行の制度では、令和5年3月 31 日までに登録申請書を提出できなかったことにつき困難な事情がある場合に、令和5年9月 30 日までの間に登録申請書にその困難な事情を記載して提出し、税務署長により適格請求書発行事業者の登録を受けたときは、令和5年 10 月1日に登録を受けたこととみなされるという規定があります。今回の改正ではその要件がなくなります。現行の制度でも、「困難な事情」についてはその困難の度合いは問われませんでした。「困難な事情」を記載した登録申請書を提出し税務署長に登録の承認を受けた場合に限定して、10月1日からインボイス方式の適用を受けることができることにしていました。
しかし、この度の改正のように、困難な事情の記載がなくても適格請求書発行事業者になることができるということは、申請期限の令和5年3月31日を超えて申請してしても、期限内に申請したのと同じように適格請求書発行事業者になることができることを意味するのではないかと考えられます。つまり、事実上の提出期限の撤廃のように思われます。
2. 電子帳簿保存制度の見直し
(1)国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存制度について
国税関係帳簿で事後検証可能性が高い電子帳簿は、優良な電子帳簿として、その優良な電子帳簿に記録された事項について修正申告又は更正の請求があった場合でも、過少申告加算税が通常の場合の10%から5%に軽減される措置があります。
この度の税制改正大綱では、優良な電子帳簿の範囲が以下の通り明確になりました。
①仕訳帳
②総勘定元帳
③次に掲げる事項(申告所得税に係る優良な電子帳簿にあっては、ニに掲げる事項を除く。)の記載に係る上記①及び②以外の帳簿
イ.手形(融通手形を除く。)上の債権債務に関する事項
ロ.売掛金(未収加工料その他売掛金と同様の性質を有するものを含む。)その他債権に関する事項(当座預金の預入れ及び引出しに関する事項を除く。)
ハ.買掛金(未払加工料その他買掛金と同様の性質を有するものを含む。)その他債務に関する事項
ニ.有価証券(商品であるものを除く。)に関する事項
ホ.減価償却資産に関する事項
へ.繰延資産に関する事項
ト.売上げ(加工その他の役務の給付その他売上げと同様の性質を有するもの等を含む。)その他収入に関する事項
チ.仕入れその他経費又は費用(法人税に係る優良な電子帳簿にあっては、賃金、給与手当、法定福利費及び厚生費を除く。)に関する事項
この改正は、令和6年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用されます。
(2)国税関係書類のスキャナ保存制度についての見直し
国税関係書類のスキャナでの保存について、以下のような見直しが行われます。
①国税関係書類をスキャナで読み取った際の解像度、階調及び大きさに関する情報の保存要件を廃止
②国税関係書類に係る記録事項の入力者等に関する情報の確認要件の廃止
③相互関連性要件について、国税関係書類に関連する国税関連帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認することができるようにしておくこととされる書類を、契約書・領収書等の重要書類に限定
上記2.(1)及び(2)の改正は、令和6年1月1日以後に保存が行われる国税関係書類について適用します。
(3)電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度についての見直し
①電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存要件ついての改正
イ.保存義務者が国税庁等の職員の質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索要件の全てを不要とする措置について、対象者を次のとおりとしました。
(イ)その判定期間における売上高が5,000万円以下(現行は1,000万円以下)である保存義務者
(ロ)その電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている保存義務者
ロ.電磁的記録の保存を行う者等に関する情報の確認要件が廃止されました。
②電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存できなかった場合の猶予措置
電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存をすることができなかったことについて相当の理由がある保存義務者に対する猶予措置として、申告所得税及び法人税に係る保存義務者が行う電子取引につき、納税地等の所轄税務署長がその電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存することができなかったことについて相当の理由があると認め、かつ、その保存義務者が質問検査権に基づくその電磁的記録のダウンロードを求め及びその電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている場合には、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとされます。
上記2.(1)~(3)の改正は、令和6年1月1日以後に行う電子取引の取引情報に係る電磁的取引について適用します。
3. その他
その他、個人事業者や法人の税務に関しまして、令和5年度の税制改正大綱の改正点及び基本的な考え方として重要と思われる点をピックアップして記載させていただきます。
(1)防衛力強化に係る財源確保のための税制措置
法人税額に対し税率4~4.5%の付加税を新たに課すことになります。
中小法人は、課税標準額に対する法人税額から500万円控除した金額に4~4.5%の付加税が課せられます。
所得税の場合は、所得税額に対して、当分の間、税率1%の新たな付加税が課せられ、復興特別所得税の税率は1%引き下げになりました。復興特別所得税の課税期間が延長になっていますが、延長期間については未定です。
(2)外国旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売場)についての連帯納税義務
外国人旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売場(=いわゆる免税店)制度)について、免税購入された物品の税務署長の承認を受けない譲渡又は譲受けがされた場合には、その物品を譲り受けた者に対して譲り渡した者と連帯してその免除された消費税を納付する義務を課すこととするほか、所定の措置を講ずることとなりました。
免税店で外国人が購入した一定の物品は、国外に輸出することが前提で消費税が免税とされています。しかし、その物品を税務署長の承認を受けずに日本国内で他の人に譲渡したり又は譲り受けたりした場合には、輸出には該当しないため、その譲渡人又は譲受人は税務署長から消費税を徴収されることとなります。免税店から購入したAさんがBさんにその購入した物品を譲渡してしまった場合には、譲渡したAさんか又は譲り受けたBさんが消費税を納税しなければなりませんが、今回の改正で、AさんとBさんは連帯して納税義務を負うことになりました。
この改正は、令和5年5月1日以後に行われる課税資産の譲渡等に係る税務署長の承認を受けない譲渡又は譲受けについて適用されます。また、この改正に伴い、輸出物品販売場制度について所要の措置を講ずることになりました。
(3)記帳水準の向上等
次の(3)と次の(4)については、この税制改正大綱では、具体的な改正については記載されていませんが、「税制大綱の基本的考え方等」として冒頭に書かれていた事項です。令和5年度以降の影響が強そうでしたので、ご紹介しておきます。
まず、記帳水準の向上等についてですが、税制改正対応には以下のように記載されています。
「記帳水準の向上は、適正な税務申告書の確保のみならず、経営状態を可視化し、経営の対応力を向上させる上でも重要である。加えて、売上や資産・負債等の状況が適切に記録されていれば、中小・小規模事業者による迅速な給付金の受給や融資につながるなど、日々の適正な記帳の重要性が改めて浮き彫りになっている。小規模事業者の半数以上が帳簿を手書きで作成しており、また、個人事業者の場合、正規の簿記の原則に従った記帳を行っている者は約3割にとどまっているのが現状である。また、個人の青色申告における簡易簿記は複式簿記に移行するための準備的な段階としての役割も期待されているところであるが、簡易簿記での申告者の3分の1超が10年以上簡易簿記による記帳を続けている状況にある。
近年、普及しつつある会計ソフトを活用することにより、小規模事業者であっても大きな手間や費用をかけずに正規の簿記を行うことが可能な環境が整ってきていることも踏まえ、複式簿記による記帳をさらに普及・一般化させる方向で、納税者側での対応可能も十分踏まえつつ、所得税の青色申告制度の見直しを含めた個人事業者の記帳水準向上等に向けた検討を行う。」
そもそも複式簿記による記帳の仕方について、その方法を知らなければ、会計ソフトを活用するのも難しいと思われますが、政府はどのように複式簿記を普及させようとしているのかは明らかにされていません。青色申告特別控除額を増加させることによって間接的に普及させようと考えているのか、今後の施策が注目されます。
(4)外形標準課税の範囲の拡充
現状の制度では、資本金が1億円以下であれば外形標準課税は適用されません。この場合の資本金の額は、財務会計上資本金として計上されている資本金の額のみを指し、資本剰余金や税務上の資本積立金額は含まれません。よって、資本剰余金等が何億、何十億あっても外形標準課税は適用されないこととなります。しかし、政府はこの状況を危惧しており、税制改正大綱で以下のような宣言を行っています。
「法人事業税の外形標準課税は、平成16年度に資本金1億円超の大法人を対象に導入され、平成27、28年度税制改正において、より広く負担を分かち合い、企業の稼ぐ力を高める法人税改革の一環として、所得割の税率引下げとあわせて、段階的に拡大されてきた。
外形標準課税の対象法人数は、資本金1億円以下への減資を中心とした要因により、導入時に比べて約3分の2まで減少している。また、持株会社化・分社化の際に、外形標準課税の対象範囲が実質的に縮小する事例も生じている。こうした事例の中には、損失処理等に充てるためではなく、財務会計上、単に資本金を資本剰余金へ項目間で振り替える減資を行っている事例も存在する。また、子会社の資本金を1億円以下に設定しつつ、親会社の信用力を背景に大規模な事業活動を行っている企業グループの例もある。
こうした減資や組織再編による対象法人数の減少や対象範囲の縮小は、上記の法人税改革の趣旨や、地方税収の安定化・税負担の公平性といった制度導入の趣旨を損なうおそれがあり、外形標準課税の対象から外れている実質的に大規模な法人を対象に、制度的な見直しを検討する。
その上で、今後の外形標準課税の適用対象法人のあり方については、地域経済・企業経営への影響も踏まえながら引き続き慎重に検討を行う。」
外形標準課税について、今回の税制改正大綱では具体的な改正については言及されていませんが、今後、外形標準課税の対象会社を拡大する施策が行われる可能性が大きいと思われます。外形標準課税の判定の対象が資本金以外の資本剰余金の金額にまで広がってくる可能性があります。そして法改正によって今まで外形標準課税の対象外だった会社が突然対象会社になることも想定されます。そうなった場合には税額が増加したり、事務負担が増えたりすることが予想されます。今後どのような改正が行われるのか、注視する必要があると思います。
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Tax Consulting Firm EOS Firm News Vol. 79
