【7月号】免税事業者から仕入れた場合の仕入税額控除の取り扱い

2022.07.13

店舗の建物を個人のオーナーなどから借りている場合、そのオーナーが「免税事業者」の場合があります。その場合の仕入税額控除はどうなるのでしょうか。

1. 原則的な取り扱い

令和5年10月1日から施行される消費税法においては、「適格請求書を保存していない」と、仕入税額控除をすることができないという規定になっています。

そして、保存だけではなく、帳簿には以下の事項を記載していなければなりません。

(1) 課税仕入れの相手方の氏名又は名称

(2) 課税仕入れを行った年月日

(3) 課税仕入れに係る資産又は役務の提供の内容(課税仕入れが他の者から受けた軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨)

(4) 課税仕入れに係る支払対価の額
この帳簿記載の規定は以前からあったものですが、それに「適格請求書の保存」が加えられたことになります。

この「適格請求書」は適格請求書発行事業者が発行した請求書を意味しますので、課税仕入れの相手は「適格請求書発行事業者として登録されていることが必要となります。
したがって、店舗建物について支払った賃料のうち7.8/110(地方消費税込みだと10/110)の消費税額を、預かった消費税から控除する場合には、オーナーが適格請求書発行事業者でなければならないわけです。

2. 経過措置

原則的には適格請求書発行事業者でない事業者(免税事業者)から仕入れた商品やサービスの支払対価の額は仕入税額控除の対象とはなりませんでした。
しかし、すぐに仕入税額控除の対象外となるわけではなく、徐々に仕入税額控除額が減っていくことになります。

(1) 令和5年10月から令和8年9月まで
適格請求書発行事業者でない事業者からの課税仕入れについて、80%の仕入税額控除をすることができる。

(2) 令和8年10月から令和11年9月まで
適格請求書発行事業者でない事業者からの課税仕入れについて、50%の仕入税額控除をすることができる。

(3) 令和11年10月以降
適格請求書発行事業者でない事業者からの課税仕入れについては仕入税額控除をすることができない。

例えば店舗家賃1,100,000円(消費税額及び地方消費税額100,000円。以後、「消費税額等」といいます)を適格請求書発行事業者でない事業者に支払ったケースを考えてみましょう。

① 令和5年10月から令和8年9月まで
100,000円×80%=80,000円➡仕入税額控除の対象となる。

② 令和8年10月から令和11年9月まで
100,000円×50%=50,000円➡仕入税額控除の対象となる。

③ 令和11年10月以降
仕入税額控除額はない。

3. 対策

では、店舗を賃貸している先のオーナーが免税事業者であった場合にはどう対応すればいいのでしょうか。
店舗の場合、仕入税額控除ができないからと言って、適格請求書発行事業者であるオーナーが所有している店舗に簡単に移転できるわけではありません。

そこで次のような対策が考えられます。

(1) 取引価格の調整
消費税分の価格について取引価格の調整をお願いします。
店舗家賃の場合は賃料の値下げをお願いすることも考えられます。取引の価格は相互の話し合いの中で自由に決めることができますので、話し合いの中で解決することを目指します。
しかし、この方法はデリケートな方法で、相手に圧力をかけたり、相手を強制したりすることは、独占禁止法や下請法などの法律に抵触する可能性がありますので、注意が必要です。

(2) 適格請求書発行事業者になってもらえるようにお願いする
取引先に適格請求書発行事業者になっていただくようにお願いする方法です。その際は、前号に記載したように適格請求書発行事業者になることの意味をしっかり理解していただくことが肝要だと思います。適格請求書発行事業者になるということは国民が負担した税金をしっかり国に納付することを意味するということです。
しかし、この方法も相手に圧力をかけて適格請求書発行事業者にしようとすることは独占禁止法や下請法などの法律の規制を受ける可能性がありますので、注意が必要です。
取引先によっては、適格請求書発行事業者になって消費税を申告することが大きな負担になると考えて適格請求書発行事業者になることを躊躇する事業者もいると思います。その場合には一定の要件の下ですが、簡易な税額計算の方法により申告することが可能です(簡易課税制度)。簡易課税制度については次号で紹介いたします。
簡易課税方式で簡便に消費税の申告を行うことも可能であることを紹介しつつ、適格請求書発行事業者になっていただくことをお願いするのも一つの方法だと思われます。
(参考図書:消費税インボイス制度の実務とQ&A 池永晃造編著 一般財団法人 大蔵財務協会)

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Tax Consulting Firm EOS Firm News Vol. 74

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