【11月号】私たちはなぜ税金を納めなければならないのか?
2022.11.30
私たちはなぜ税金を納めなければならないのでしょうか。今回はこの一見当たり前だと思われている問題についてを考えてみたいと思います。
1. 納税の義務
小学生や中学生で、憲法に規定されている三大義務とは何かを覚えさせられた経験がある方が多いのではないでしょうか。
三大義務とは、
- 教育の義務(子女に教育を受けさせる義務)
- 勤労の義務
- 納税の義務
です。
三大義務として「納税の義務」を覚えさせられたため、あくまでも納税は義務としての側面しか持っていないと考えている方が大半だと思います。つまり、「私たちはなぜ税金を納めなければならないのか」という問いに対しては、「憲法で義務として定められているからだ」というのが答えだということです。
納税の義務は、憲法第30条で以下のように規定されています。
憲法第30条「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」
しかし、ここで考えてみたいことがあります。
まず、そもそも納税の義務を規定している憲法とはいったい何かという点です。
なぜ憲法で納税をしなければならないと定められていると「納税の義務」が生じるのでしょうか。また、憲法第30条の文言にある「法律の定めるところにより」とは、どういう意味なのでしょうか。
2. 憲法とは何か?
憲法とはいったい何なのでしょうか。
私たちは中学生の頃、憲法について学びました。しかし、憲法とは本質的には何なのかについては、実は学んでいないように思います。なぜなら、それは教える側の教師の立場にも大いにかかわり、教えてしまうと生徒への影響が強いからだと思います(教師のほとんどは公務員です)。
憲法の役割は、国や政府の権力が横暴にならないように、コントロールするところにその本質があります。
憲法第98条でその旨が規定されています。
憲法第98条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」
つまり、憲法は、国務大臣や公務員などの権力者に、憲法を尊重し擁護することを求めています。憲法は、国家権力をコントロールしているのです。この原理を「法による支配」と呼んでいます。
そして、憲法は主権者である国民の代表者が定めた「民定憲法」という性格も持っています。憲法は「国民が定めた」最高法規なのです。
つまり、国民が国務大臣や公務員をコントロールする仕組みを定めているのが憲法なのです。
3. 租税法律主義
その憲法が、「国民は法律に定めることころにより納税の義務を負ふ」と規定しています。
さらに、もう一つ、憲法は第84条に税金に関する規定を置いています。
憲法第84条「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを要する。」
つまり、前述の第30条と84条を併せると、租税を課すには法律によらなければならず、納税の義務も法律の規定があって初めて成り立つことがわかります。この原則を「租税法律主義」と呼んでいます。
そして、この条文は国務大臣や公務員も従わなくてはならない規定で、「法律」の根拠が必要ということになります。
では、「法律」とは何でしょうか。
4. 代表なければ課税なし
法律とは、立法機関である国会において国会議員によって定められます。
国会議員は私たちが選挙により選んだ国民の代表者です。よって法律は間接的ではありますが、私たち国民が定めたものと言えます。
つまり、私たち国民が定めた法律に従って租税は課され、納税義務を負うことになります。
この件について象徴的な歴史的事件がありました。それは、アメリカの独立戦争です。
アメリカがまだイギリスの植民地であるとき、イギリスはアメリカに対して印紙税を課税することにしました。しかし、アメリカはこの決定に対して反発します。その当時、イギリスの国会においては、植民地であるアメリカの代表者はいませんでした。自分たちの代表がいないところで、法律で税金を定め、それを押し付けるのはフェアではないと抗議したのです。自分たちのかかわりのないところで決めた課税には従わないということです。この時のスローガンが、「代表なければ課税なし」です。
江戸時代の日本もそうですが、徳川将軍家など当時日本を支配していた者が法律を(勝手に)作り、それを庶民(国民)に一方的に守らせていたことを考えますと、「代表なければ課税なし」という考え方は、本当に画期的なものだと思います。
5. 権利としての納税
以上をまとめますと、憲法は、そもそも公務員、税金に関して言えば国税庁や税務署の職員を、法の支配によって権力の濫用が起きないようコントロールしていることになります。そして、その憲法の中で、税金を課すには国民の代表者である国会議員が制定する法律の定める条件が必要だと言っているのです。
つまり、税金を課すための法律である税法は国民が定め、その国民が定めた法律の下に国税庁や税務署の職員は職務を行うことになっています。
こう考えますと、私たち国民は税に関する法律(税法)を守り、国税庁や税務署の職員が税法を濫用して適用しないように監視する権利があることになります。国民は税を納める義務があるとともに、税法によって適正に納税する権利も持っていることになります。
税法は国民が定めた重要な法律であることがご理解いただけたのではないでしょうか。国税庁や税務署の職員が権力を濫用して国民を苦しめていないか監視することも国民の大きな役割といえます。
とはいえ、税法ですべての事項を詳細に規定することは難しいことから、国税庁は税務署の職員に対して「通達」を発しています。通達は上級官庁から下級官庁への命令ですので、税務署の職員はこの通達にしたがって税法の条文を解釈し、国民に対して課税を行わなくてはなりません。
「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを要する。」という租税法律主義の観点からすると、この通達を盾に国民に課税をする現在の仕組みが、公務員は国民が制定した憲法にコントロールされなければならないという仕組みと矛盾するのではないかという点は、国民一人一人が検討しなければならない重要な課題だと思われます。
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